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  • 「平均点が上がってからのデモは財産」 阿久津健太郎が明かすPASSPO☆新作制作秘話と作家としての矜持(後編)
    “ペンネとアラビアータ”名義でPASSPO☆のトータルサウンドプロデュースを手掛け、作家としても中ノ森BANDやw-inds.、Folder5、MAXなどを手掛けてきた阿久津健太郎(以下、阿久津)へのインタビュー。後編では、歌詞の書き方やPASSPO☆との仕事で得たもの、機材の話や若手へのアドバイスなどについて、たっぷりと明かしてもらった。

    >阿久津健太郎が語る、プロデューサー・作家としての半生 「女性の歌詞を書くときは『視点をひっくり返す』ことを意識する」(前編)

    取材・文:大久保徹、中村拓海
    写真:下屋敷和文



    ――阿久津さんは、「アーティストと話して引き出したネタを書く」か「距離を取って客観的に書く」かでは、かなり前者よりではないでしょうか。

    阿久津:
    メンバーと会わずに楽曲提供することもたまにありますが、やっぱり全然イメージができないんですよね。それに、本人の話し口調で文字にした場合と、そうでない場合では、歌詞の質感が変わってくることもあります。だからこそ、最低一回は話をしてから書きたいです。

    ――阿久津さんがご自身のブログで『PASSPO☆感』という定義をしていて気になったのですが、はっきり言葉にするとどのような感覚なのでしょうか。

    阿久津:
    自分の音楽性自体は、さきほど中ノ森BANDを手がけていた時からそこまで変わっていないのですが、「プラチナム・パスポート(PASSPO☆所属事務所)」の社長と振付師の竹中夏海先生がアイデアマンで、たくさん面白い発想を持っている人たちなんです。僕は王道なものを作れと言われてきた事務所にいましたし、キャッチーさを意識して、シンプルな曲を作るようになっていたのですが、2人の考え方はかなりサブカル寄りなんです(笑)。社長とアイディアのやり取りをするなかで、面白いネタを拾いつつ真面目さも残った曲を僕が作って、最後に竹中先生が仕上げる。こうすると面白いバランス感の曲になるんです。この挟まれた状態っていうのがいわゆる『PASSPO☆感』で、彼女たちと仕事をしていて面白いと感じる部分でもあります。もちろん本人たちのキャラも面白いです。

    ――PASSPO☆といえば歌も面白いですよね。メンバーによってロック向きの声とポップス向きの声があって、それぞれの声が活かされています。

    阿久津:
    自分がアイドルと仕事をするなら、「歌を聞いた時に誰だかわかるようにしたい」とか「一番歌える子が歌えばいい」という考えで始めたんです。でも、いざやってみると、ある子の歌割りを増やしたら、いろんなファンの方から「ありがとうございます!」って言われたりして。アイドルなので、曲中で推しのメンバーが歌い出すと、ファンの方が推し色のサイリウムを振ったりするのですが、当時の僕はこの光景に衝撃を受けて、歌割りをすごく考えるようになりました。いわゆる一つの歌い方、PASSPO☆の歌い方を決めつけていくんじゃなくて、ひとりひとりの声を活かした楽曲で歌割りを変えていこうという考えに変わりましたね。みんなの歌割りも増えたし、作り方の幅も増えたと思います。ユニゾンが揃うグループっていいと思うんですけど、PASSPO☆はユニゾンが揃わないグループなんですよ。でも、それは悪い意味ではなく、そのバランスを上手く引き出しながら手がける曲作りがすごく楽しいし、そこから曲作りの幅も増えたと思うからこそ、深く関わらせてもらっているんです。



    ――ブログには、ほかにも「HONEY DISH」について、「『マテリアルGirl』『くちゃLOVE』などに通ずる、PASSPO☆が得意な世界観」と書いてありました。

    阿久津:
    得意というか、それがたぶん“中ノ森BAND感”なのかもしれません。PASSPO☆は「アメリカンガールズロック」を謳っていますが、これって細かく言えば「カナダロック」なんですよ。僕が個人的にサム41やシンプル・プランのようなバンドが好きなので、中ノ森BAND時代からそういう曲ばかり作っていたんです。

    ――カラッとして、開放感のある曲ですよね。

    阿久津:
    そうです。PASSPO☆を始めた当初はそういう湿度が低いロック曲をやっていました。最初の頃はロックを歌っているアイドル自体ほとんどいなかったんですけど、最近はすごく増えましたね。PASSPO☆も、楽曲提供していただく機会が増えたりするなかで、湿度の高いロックや、メロコア的なものも多くなってきました。でも、『Beef or Chicken?』を制作するタイミングで、メンバーと竹中先生の方から「PASSPO☆らしさって湿度の低いロックなんじゃないか」という話がありまして。そこでもともと作りやすかった「マテリアルGirl」などの世界観を継ぐような形で、「HONEY DISH」が出来たんです。ただ、そのまま踏襲しているわけではなくて、最初の頃よりも歌割りは増えて、本人たちの表現力も上がっているので、同じようで違うと思うんですよね。このアルバムは本当にいろんな挑戦ができました。

    ――今回はメンバーが作詞を手掛けているものも数曲ありますが、これは詞先なのでしょうか。また、阿久津さんはこの作詞に関して、メンバーにどういったアドバイスを送りましたか。

    阿久津:
    これは曲先です。今回は方向性をメンバーが決めて作ったアルバムでもあるので、「そこまで言うなら作詞もやろうよ」というところから始まったんです。デモが全曲揃った時点で、歌割りの振り分けをイメージできたので、各曲の中心になっている子に作詞をお願いするところから始まりました。もちろん、作詞経験があるわけではないので、言葉のリズムが取れてないんですよね。曲と詞のリズム感として、1つの8ビート・8分の音符に対してそのまま1文字ずつはめるのと、2文字ずつはめるのではノリが変わるんです。2文字ずつはめていくと洋楽っぽく聞こえたりします。僕は2文字ずつはめていくタイプですね。メンバーが書いた歌詞でリズム感がよくないところは、僕がアドバイスをして調整していきました。

    ――そこで頭角を現したメンバーはいましたか?

    阿久津:
    「Not in theory」の作詞を担当した槙田紗子ですね。僕が作った適当英語の仮歌に入っているノリをそのままに嵌めてくれていて、リズムに対する意識が強いのだと感じました。だからあの子の詞はそんなにリズムを直していません。増井みおのワード感も彼女独特の世界観があってとても面白いです。

    ――阿久津さんは適当英語で仮歌を作るんですね。洋楽っぽいリズムになるのも納得しました。

    阿久津:
    そうなんです。昔は曲を書いて、人が詞を書いてくれたのを見て「こんなに文字数が少ないんだ」と思いましたし、逆の場合には「文字数が多い」とか「ここは8分ではめてください」と削られたりしました。どうしても詰める癖があって、よくメンバーから「PASSPO☆の曲はカラオケで歌うとすごく難しい」と言われます。譜割りが細かく、うろ覚えでは歌えないんですよね。

    ――メロよりも詞が先を走って行くタイプというか。サザン・オールスターズの桑田佳祐さんもそうですよね。

    阿久津:
    まさに。Mr.Childrenの桜井和寿さんの詞などもそうだと思いますよ。

    ――先ほどPro Toolsに移行してから、ソフトは一貫して変わっていないという話もありましたが、これまでどんな機材を使ってきましたか。

    阿久津:
    10代のころはQY10で、20歳すぎぐらいでMacintosh G3を手にし、初めてPro Toolsを触ったんです。その頃はPro Toolsのシーケンス機能をアテにしておらず、Cubaseをシーケンサーとして使っていました。でも、Cubaseがバージョン5ぐらいで止まるという噂が立って、Nuendoに移行したんです。まぁ、結果誤報だったんですけどね(笑)。そこからPro Toolsのシーケンスを自分で打ちこむようになりました。最初はかなり使いづらいと思ったんですけど、いまはむしろ楽だと思っています。というのも、僕は個人的に、打ち込んで流し込んでいくという作業の際、細かい部分をかなり直すタイプで、その日に「こうしたい」と感じた部分はすぐにでも変えたいんです。仮歌してレコーディングを録り終えるまでは、少しでもよくしたいタイプなので、その時にポンと流し込めるPro Toolsが便利だと思っています。



    ――特殊なやり方ですよね。そこにはエンジニア的な視点があるように思えます。

    阿久津:
    ミックスエンジニアに渡すときも、セッションとかも自分でミックスしたものを含め、必ず2つのミックスを聞かせるんです。じゃあ自分でやれよって話なんですけれども(笑)。

    ――それはエンジニア泣かせなところもありますね。

    阿久津:
    きっとみんな、「こいつ面倒くさいな」って思っているんじゃないかな(笑)。やっぱり「これはこのパンで左から出して欲しい」とか、自分の中でイメージがあるんです。「これは右から」「ディレイはこのタイム感・フィードバック感で」「リバーブはこれがいい」とか。だからやっぱりPro Toolsなんですよね。いまは現実的に予算の問題で、インディーズものだと自分でミックスもそのまま手がけてしまう場合もあるので、全部Pro Toolsなんですよ。Studio Oneは、最終的なマスタリングの際に音を結構いじれるので、使う機会がないわけではありません。

    ――コンペで楽曲が採用されない時期を乗り越えるために、若いクリエイターがすべきことはなんですか。

    阿久津:
    すごく当たり前のことですけど、音楽はなんでも聴いたほうがいい。僕も10代のころは「自分はロックだから」と、ほかのジャンルを聴こうとしなかったから、なおさらそう思います。コンペばかりの時期にダンスものを聴いて、曲の幅は広がったし、通る曲も増えた。自分が持っている音楽の幅って、しっかりデモに反映されるし、コードのひとつ取ってもわかるものなんです。あと、作詞に関しては、抽象的な歌詞にOKがでる時期は、「これって別に誰でも書けるんじゃないか」という葛藤がありましたね。

    ――誰のものでもあって、誰のものでもないというか。

    阿久津:
    最初に採用される曲がそういうものばかりだと、下手にその手法を捨てられなくなってしまうのも考えものでした。でも、僕はこの時期があったから、改めて自分の個性や自分らしさを考えるようになったんです。ときどき、いいものはいいんだけど、駄作も出すというアーティスト性のある人がうらやましくなったりしますが、作家としてやっていくとなると、やっぱりある程度のOKライン、最低限のクオリティを、自分で知っていかないといけないんですよね。そこには葛藤もあると思うんですけど「こういうものがOKになるのか」という感覚を知ることで、逆に何を肉付けすればいいか考えられるようになります。

    ――過去に大量に作ったデモがいま、活用されることはありますか。

    阿久津:
    そうですね。平均点が上がってからのデモは財産なので、組み合わせ次第ですごくよいものができたりします。とくにいまのPASSPO☆の曲は、平均点の自作に対して、さらに個性を肉付けできるようになったと自負しています。そう考えると、葛藤していた一時期も、無駄じゃなかったと思います。

    ――OKラインの判断を見極め、真面目に続けてきたからこそ、オリジナリティも付加できると。

    阿久津:
    そうですね。ある時期、コンペでOKが出始めた時に、ディレクターから「だれでも作れるよね」と言われたことがあったんですよ。その一言は悔しかったけれど、それがきっかけでいまの考え方に辿り着いたのかもしれません。近年は本当にデモのクオリティが上がっていて、歌詞をはめるワード感・リズム感はもちろん、アレンジも大事だし、昔はマニピュレーターがいないと足せなかった音色が、数万のプラグインを買えば可能になりました。最後までひとりで完結しやすくなりましたが、一方で間口が広がったことで、ライバルは年々増えています。だからこそ、オリジナリティは大切で、それを見つけるためにも、たくさんの経験を積む必要があるのではないかと思います。




    阿久津健太郎

    シンガーソングライター、音楽プロデューサー、ギタリスト。東京都新宿区四谷出身。 兄妹2人組音楽ユニットZERO、男性5人組ミクスチャー・ロックバンドHAVの元メンバー。
    俳優としても活動した。
    1991年、第4回ジュノン・スーパーボーイ・コンテストでフォトジェニック賞受賞を機に正式に芸能界入り。
    1992年10月15日、フジテレビ系ドラマ『放課後』で俳優デビュー。
    1995年2月22日、シンガーソングライターとしてシングル「夢をこの手に〜Dream Again〜」をリリース。
    1996年5月22日、妹の阿久津愛(当時18歳)をメインヴォーカルに据えた兄妹2人組ユニットZEROとしてシングル「ゼロから歩き出そう」をリリース。安室奈美恵出演のロッテ「シュガーレスチョコレートZERO」、「シュガーレスアイスZERO」のCMソングに起用された事もあり約30万枚を売り上げた。
    1999年、ZERO解散。その後ライジングプロダクション及びヴィジョンファクトリー所属アーティストの作詞・作曲を手掛ける。
    2003年3月10日、男性5人組ミクスチャー・ロックバンドHAVのメンバーとしてシングル「YOU GONNA FEEL」をリリース。
    2005年6月、HAV活動停止。
    2011年5月16日、作詞・作曲を手掛けたぱすぽ☆のシングル「少女飛行」がオリコン週間ランキング1位を獲得した。
    オフィシャルブログ



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    2015.06.26

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